小臼歯非抜歯矯正症例集

はじめに

相模原敬友会歯科の経営母体である、医療法人社団敬友会では30年ほどまえから矯正治療を行ってきました。当初は、広く日本でも行われている小臼歯と言う奥歯の真ん中の歯を抜いて歯を並べる方法を数多く手がけました。

矯正歯科だけをやっている歯科医院は矯正治療が終わった後の10年後や20年後は見ていません。患者さんが通院するわけがないからです。しかし、私どもの様な矯正だけを行っていない歯科医院の場合、それらの長期予後を目にする場合も多いのです。すると、後戻りの問題や咬み合わせの問題が出てくることをかなり目にしてきました。

また、小臼歯を抜くことにより、矯正治療が非常に長くなるケースも多く経験してきました。それは、最初の診断では抜歯が必要と分析して抜歯をすると、ワイヤーで歯を並べているうちに、抜歯をしたのと同じだけのスペースが生じることを経験したからです。つまり抜歯する必要が無かったことを意味するのです。

その様なことがあり、敬友会では10年前に、神奈川歯科大学の元学長であり、同大学の元矯正学講座教授の佐藤貞夫先生が提案開発した方法を取り入れました。

佐藤教授の考え方は顎の位置は成長時の大臼歯部の萌出の違いで起こり、それに伴い歯が傾斜することにより歯並びを悪くするという理論です。よって、大臼歯部の咬み合わせを変える事により、そして倒れた歯を立てる事により顎の位置や歯並びを治すのです。

そしてこの理論に基づき、更に治療方法を進化させたのが、佐藤教授と共に研究をされた、岡山県の白数明義先生です。白数先生は、この理論に基づき、新しい矯正用のワイヤーであるゴムメタルを使って矯正治療を行ってます。わたしども敬友会では3年前より白数先生に岡山からお越しいただき研鑽を積んでまいりました。

佐藤先生や白数先生の矯正方法は、海外ではかなり取り入れられていますが、日本ではまだ少数派です。

敬友会では、この方法を全面的に取り入れています。その方法による小臼歯非抜歯の症例をご紹介してまいります。

矯正治療しか行っていない歯科医師からすると、画像を加工したのかと言われかねない症例も多いと思いますが、一切その様な加工はしていません。

第1症例

50代女性

一番気になること:出っ歯が気になる

専門的な診断は2級1類。

下顎が、後方に引っ込んでいるにもかかわらず、上顎の前歯が前方に向かって傾斜しているので出っ歯に見えます。

治療はゴムメタルによる 小臼歯非抜歯矯正。左の第一大臼歯が45度ほど、傾斜していたために、その後方の歯を抜歯して、引き起こしました。そしてその後方の親知らずを歯の位置に移動させました。

注目すべきは、下顎を後方から前方に引き出すために、奥歯の咬合状態をゴムメタルにより変化させました。

門的には、顎位の変更を行いましたが、二態咬合にはなっていません。


矯正期間は2年10カ月。

日本で一般的に行われている矯正治療は、上顎の小臼歯を左右抜歯をして、上顎前歯を後方に下げます。下顎の位置は当然変えません。この様な方法ですると、前歯の前突感は無くなるのですが、下顎の位置は変わらないので、なんとなく、老け顔になります。しかし、私どもが行っている方法では、本来の原因である、 下顎の後退を根本的に治します。よって老け顔にはなりません。

これらの方法は前、神奈川歯科大学矯正学講座教授、佐藤貞夫先生や、白数明義先生が考案した矯正理論によります。

症例1術前
症例1 術後

第2症例

30代 女性

気になること:どこで咬んでよいのかわからない。下の前歯で上あごの歯茎を咬む。出っ歯がいやだ

専門的には2級1類(過蓋咬合)

実は、この症例は理事長の娘です。小学生の時にすでに2級傾向でした。下顎の成長がやや足りないのが原因ですので、夜間に入れておく義歯状のFKOと言う矯正装置を作成しました。しかし、殆ど装着しませんでした。よって治らないまま成長しました。成人してからも矯正をすることを考えていましたが、学業があったので断念。そしてやっと落ち着いた状況になったので、矯正治療を行いました。この時はすでに、佐藤貞夫先生や白数先生の矯正方法を行っていましたので、当然、小臼歯は抜かない矯正を行いました。

通常この症例では、症例1と同様に、日本で行われている矯正治療の場合、上顎の小臼歯を両側1本抜歯をしてそのスペースに上顎前歯を押し込みます。その前歯を押し込む際に、下顎の回転が起こり、かみ合わせが一層深くなり、それを治すのに数年かかり、トータルとして矯正治療期間が4〜5年になることもあります。

この症例も、ゴムメタルにより、かみ合わせの高さのアップ(咬合挙上)を行いました。そして下顎臼歯部を圧下(めり込ませる)させ、上顎の大臼歯部をやや引き出す方向の力をかけました。この処置により顎の位置の回転が起こり、正しい位置で咬めるようになりました。専門的には二態咬合には全くなっていません。治療期間は2年です。

本人に聞くと、どこで咬んでよいのか分からなかったのが、しっくりと咬める様になったそうです。そして、下顎が前方に移動した事および、前歯の傾斜も改善したために、前突感(出っ歯の感じ)は一切なくなり美しくなりました。

ただ、この矯正方法は、下顎の親知らずの抜歯が必須になります。深い位置のその親知らずがある場合、抜歯が非常に大変なのです。この症例では、左下の親知らずの抜歯に4時間かかってしまいました。

日本では異端の方法ですが、非常にきれいに治っているのがご覧いただけると思います。

症例2術前
症例2術前
症例2術後
症例2術後
症例2術前後比較

第3症例

20代女性

気になること:八重歯が気になる

叢生症例

右上の犬歯が1本、まるっきり外側に生えている状態でした。この様な場合、第一小臼歯4本(術後の黄色の矢印)を抜いてスペースを作って外に飛び出した犬歯を歯列の中に入れて並べます。

しかし、この症例の場合も小臼歯を抜いていません。ゴムメタルを用いて矯正をしました。結果は御覧の通り、まったく問題なく歯列は完成しました。矯正治療はゴムメタルワイヤーのみで他の装置は使っていません。

矯正期間は2年半程度です。

小臼歯を抜歯してしまうと、この症例の様に右上の犬歯の部分は犬歯を並べるのに都合が良いのです。しかし、問題は他の3本です。なぜ、抜くかといえば、上下の歯は噛み合う場所があるので、辻褄を合わせるためです。ただ、この部分のスペースは確実に余るので、前後の歯を移動させて隙間を閉鎖するのです。しかし、実際には奥歯を前方に動かすのはかなり難しい場合が多いのです。よって前歯が後方に移動して嚙み合わせが深くなってしまったりします。それを治すのに、時間がかかったりするのです。よって小臼歯抜歯は避けたほうが良い場合が多いのです。