インプラント基礎知識
インプラントを埋めるための条件
骨の条件
インプラントはチタン合金で出来た、ネジの様なものです。それを骨の中に埋め込んで留めます。よって骨の厚みや幅、そして骨質が問題になります。
具体的には、現代のインプラントはほぼ、円錐形のネジ状、または樽状です。そして標準的サイズは、ネジ状で直径5ミリ弱。長さは10ミリ程度です。樽状の場合は直径5ミリ以上、長さは7ミリ程度です。
板にネジを埋めたことがある人なら分かると思いますが、当然ながら、ネジの直径以上の板の厚みは当然ながら必要になります。インプラントの場合も同じで、最低直径よりプラス2ミリ必要になります。その必要最低厚みは周囲に必要です。また、インプラントの長さに対しても骨は必要になります。
上顎は、特に奥歯でこの高さが足りない場合があります。歯が埋まっていたのになぜ、骨が足りないのかと思われるかもしれません。それは、歯を抜くと骨が痩せる傾向(吸収)があるからです。もともと骨が厚い人は、多少の骨の吸収があってもインプラントを埋めるのには問題がありません。しかし、もともと骨が薄い人は、問題になるのです。この骨が厚いか薄いかは、個人差なのです。
下顎の骨は、骨の中に下顎管と言う三叉神経の第二番の下顎神経がパイプラインとして通っています。この位置が問題になります。相対的に顎の下縁に近い方でしたらそれほど問題になりません。しかし、口の中に近い位置に存在している場合、埋めるインプラントに近くなる場合があるのです。よってこの下顎管の位置をCTで予め、調べておくことが非常に重要になります。
骨の質は、硬くても柔らかくても、そのままでは成功率は下がりますが、骨の量よりも問題にはなりません。これもCTを撮影する事により、おおよその状態は把握できます。
お体の条件
全身疾患があり、特にお医者さんにより経過観察をされていない疾患をお持ちの場合は原則的に出来ません。特に、放置されている糖尿病の場合は禁忌となります。ヘビースモーカーの場合も、ある期間の禁煙が出来ない場合は原則的に出来ません。ただ、以前よりインプラントが出来る場合が多くなってきています。担当医にご相談ください。
骨が足りないとき
骨を造ることができます。しかし建築資材で足りない部分にパテで足すような簡単なことではありません。
骨を造る方法は、自分の骨を誘導して来るような物質を骨の無いところに置くのです。それを骨補填材と呼びますが、これ自体が骨になるわけでは無いのが難しいところなのです。難易度が高いのは、下顎の骨が無い部分に骨を造る事が難しく、上顎洞に骨を造るのは比較的容易です。
歯が存在していた時には必ず骨があります。骨が薄い場合もありますが、咬む力で骨折したなどとは誰も聞いたことが無いと思います。それくらいバランスが取れているのです。
歯を抜いて暫く放置していると、骨が無くなってしまう場合があります。また、抜歯の際に抜きにくかった場合には、骨を失う事もあります。骨の量は個人差が大きく関係します。
この様なインプラントの埋め方は事実上できません。
上下ともに、骨を造って、インプラントを埋めます。ただし、非常に難しい技術です。何回か骨を造る手術が必要な場合もあります。上顎がサイナスリフト。下顎がGBRです。
相模原敬友会歯科のインプラント
はじめに
敬友会は4箇所の診療所を持つ医療法人です。毎月5000人程度の患者様にご来院頂いています。そしてインプラントによる治療は30以上前から実施をしております。こ の様な大規模な歯科医院にもかかわらず、インプラントの本数は、全体で毎月10本程度の埋入となっています。よって年間100本程度です。
昨今、1施設で年間千本の実績の様な歯科医院のHPをよく見かけます。なんでそんなに多いのだろうと思ってしまいます。その理由を推測すると、沢山の歯を一度に抜いて、同時にインプラントを埋めてしまう方法を採用しているのだと思われます。
敬友会の歯科医院では、その様な同時に沢山のインプラントを埋めるような方法は用いていません。敬友会と言えば、根管治療です。
よって、相模原敬友会歯科でも残せる歯は根管治療で残すのが基本です。しかし、残念ながら、根が折れていたり割れていた場合には、インプラントをお勧めする様にしております。
又、一度に多くのインプラントを埋めてしまうと、咬む部分が無くなってしまいます。その様な不都合は避けたいので、部分的にイプラントを行うようにしております。
更に、歯のない人に4本程度のインプラント(上下8本)で対応する、オールオンフォーの様な治療は、エビデンスが低いために、行わない事にしています。
敬友会では、インプラントの歴史は30年以上あります。その経験や技術は、院内講習会等で、勤務医の歯科医師にも共有をしています。
現在ではインプラントの技術も進み、回数はかかてもできない症例は殆どなくなりました。相模原敬友会歯科では、骨造成から、サイナスリフト等の高度な技術が必要な症例も行える設備と実力があります。
理事長の久保倉が研修を受けた海外の大学
これらの研修で得られた知識は敬友会の全ての歯科医師に共有できるようになっています。
相模原敬友会歯科で使用するインプラント
レーザーロックインプラント
インプラントの材質はチタン合金が圧倒的に多く、メーカーによる差異よりも、埋める位置や方向の方が重要です。
ただ、数多くのチタン合金製のインプラントの中でも、歯肉の様な軟組織がインプラントに付着すると言うエビデンスを持つ唯一のインプラントが米国バイオホライズン社製のレーザーロックインプラントです。この事により、インプラント周囲炎を起こしにくいと言われています。実際に、10年以上の使用感では明らかにインプラント周囲炎は少ないと思われます。また、後述するスクリューリテインインプラントにおいてネジが緩みにくい特徴もあります。
なお、純チタン製のインプラントを敬友会では、以前使っていたことがありますが、20年近くの経過で折れることが出てまりました。よってチタン合金のインプラントを現在では使用しています。レーザーロックインプラントはチタン合金です。
スクリューリテイン方式を採用(セメントを使いません)
セメント固定方式
日本では、この方法が多い。
スクリューリテイン方式
欧米ではこの方法が多い
インプラントは、骨の中に入る歯の根にあたる部分(フィクスチャーと言います)と歯に相当する上部構造に分けられます。この2つを接合する方式には、2種類あります。
①セメント合着方式→接着剤で貼り付ける方法
➁スクリューリテイン方式(ねじ止め方式)→接着剤を使わないで、ネジで締め付ける方法
歯科医師が扱いやすいのは①です。それは、普通の被せものと同じような手技で出来るからです。しかしインプラントの場合は、接着剤であるセメントが歯茎とインプラントの間に残ることが問題なのです。普通の歯でも同じように、セメントの残留は問題になるのですが、インプラントの場合は影響が大きく出るのです。よって、残留セメントを取り残さない色々な方法が考案されてきました。しかし、一番良いのは、使わない事です。それが➁のスクリューリテイン方式です。
スクリューリテイン方式の欠点は、前歯に使った場合、犬歯の様な歯の種類の場合は、ネジ穴が歯の前面に来てしまう事です。しかし、現在では、歯の相当する部分に金属を使う必要が無くなり、セラミック単体の場合が多くなりました。この場合は、ネジ穴をレジンという素材で塞いだ場合、殆ど審美的に問題が無くなりました。相模原敬友会歯科では、スクリューリテイン方式を採用しております。
敬友会のインプラントの症例
同じ法人の小机歯科医院での長期症例です。
症例1 インプラントは自分の歯を長期に渡って守ります
初診時40代の女性 (現在60代後半)
1997/08 25年前
左下にブリッジが装着されています。
この段階では問題はありません。
2002/04 20年前
ブリッジの土台の、一番奥の歯の根が割れてしまいました。よって
ブリッジを分割してその歯だけを抜歯しました。この段階で、前の方の土台(赤矢印)の歯も動き始めていました。レントゲンでは歯の根の周囲が黒く変化しているのが分かると思います。この段階でそろそろ抜歯も近いと思われました。
2002/08 20年前
左の奥に2本のインプラントを埋めました。
尚、現在では、この様なワンピースインプラントは使っていません。
2020/08 2年前 (インプラント施術後18年経過)
インプラントはもちろんの事、赤い矢印の動いていた歯も問題なく機能しています。インプラントがその歯の荷重を軽減したためだと思われます。尚、2022年の現在でも変わりません。
また、上顎のブリッジもダメになり、インプラントになっております。神経を取った歯のブリッジは根が割れやすいのです。
症例2 前歯の症例
初診時40歳の男性
被せものをしてある前歯(右側切歯)が折れてしまったために抜歯をしました。この段階で、骨が薄いのが分かっていたので、ソケットプリザベーションと言う方法で骨の吸収を極力抑制する方法で抜歯後の処置をいたしました。
それでも骨の幅は恐らく足りないと思われたので、抜歯後の経過を見ながら骨造成(GBR)を予定していました。しかし、経過を見ていたら骨造成をしなくても良い状態だったので、そのままインプラントを埋めました。
前歯のインプラントの場合、問題は歯間(冠)乳頭と言う歯と歯の間の歯茎を再現できるかが非常に問題になります。この症例は、臨在する歯の骨の位置が良かったので、インプラントをやや深めに埋めることにより長期にわたり歯間乳頭を保存できている症例です。
よって、歯間乳頭が再現できるかどうかは、抜歯をする時に、隣の歯の骨をなるべく傷つけない様にする事および、インプラントの太さや埋める位置を適正にする事が大事なのです。
奥歯は咬めれば良いのですが、前歯は審美的な要素が非常に大きいので難しいのです。
症例3
初診時40歳の女性
2013年9月。右の上の歯が無くて、左で咬んでいたのですが、左でも咬めなくなったので来院。左下のブリッジの部分の奥の方の歯根が折れていました。右上の歯が欠損している部分の骨の高さは通常のインプラントを行うのには足りませんでした。
右上の部分はサイナスリフト法により骨造成を行ってからインプラントを埋めました。(現在なら、サイナスリフトと同時にインプラントを埋めます)
左下は抜歯後にGBRと言う方法で造骨を行ってインプラントを埋めました。
インプラントを行ってから、8年程経過しましたが、右下の1本もインプラントを追加した以外は、問題はありません。ご本人も、なんの心配もなく食事が出来ているようです。この様な方にもし、入れ歯(義歯)を入れていたら、現在はもっと歯がないと思われます。そして好きなものが食べられないかもしれません。
2013年
2022年
右上のサイナスリフト法のよる造骨
歯の横の骨を削って、そこから人工骨材を入れて骨を造ります。しかし、上顎洞にはシュナイダー膜という3層構造をした粘膜があります。それを破らないように上顎洞内の骨から剥がして人工骨材を入れてまいります。この場合、周囲が血液供給源となる骨に囲まれている空間であること、またシュナイダー膜で人工骨材が抑えらられること。このことから考えると、造骨は比較的容易です。
参考→小机歯科医院のHPのサイナスリフト法
インプラントにおける不具合
現在のインプラントは殆どが金属で出来ています。よって酸で歯の成分が溶けてしまう虫歯には絶対になりません。しかし、歯は歯周病になるのと同じで、不潔にしていると、インプラントの周囲に炎症を起こします。そして、それが進んでしまうと、抜け落ちてしまいます。これをインプラント周囲炎と言います。
また、長年使っていると、折れる事もあります。この場合、チタン合金ではなく、純チタン製であったり、咬む力が強い人の場合、インプラントやインプラントのパーツに圧力が集中すると折れる場合があります。
インプラント周囲炎のレントゲン
インプラントの周囲の清掃状態が悪かったりすると、通常の歯が歯周炎(歯槽膿漏)になるのと、同じでインプラントの周囲に炎症を起こします。
炎症を起こすと、生体は異物としての認識をしますので、周囲の骨を溶かして排除しようとします。
折れたインプラント
歯科用のインプラントはチタン合金または純チタンが素材です。右のインプラントはワンピースインプラントという1本の純チタンの塊のインプラントです。17年半で折れました。固い素材ですが、金属疲労を起こすことを認識しました。現在では、この純チタン製のインプラントは使用していません。もっと強度のあるチタン合金製インプラントを使っています。
左のインプラントは他医院でのインプラントですので、経過年数は不明です。ただ、このインプラントの首の部分の一部が欠けているインプラントは何例か見ました。ですから、インプラントは一生持つとは言いきれません。
このHPはリンクフリーです