顎関節症(がくかんせつしょう)

原因、症状

顎の不具合でお悩みですか?外傷や感染症を除く、顎の痛みや機能障害全般を顎関節症と呼びます。顎を動かす筋肉の障害、顎関節の関節円板の異常や位置ずれ、精神的な要因などが複合的に関与している場合があります。

顎関節症の主な原因

主な原因として、歯を強く噛み合わせる食いしばりが挙げられます。食いしばりによって、咀嚼筋に負担がかかり、関節円板のずれが生じることがあります。また、顎の位置(噛み合わせ)との関連性も指摘されています。特に、下顎が後退している2級咬合や、上顎の前歯が内側に傾斜している2級2類咬合は、顎関節症になりやすいと言われています。これは、下顎が後方に押し込まれることで、関節円板が前方にずれやすくなるためと考えられます。

顎関節症の症状

  • 顎の痛み
  • 口が開けにくい
  • 顎を動かすと音がする(カクカク、ゴリゴリなど)
  • 頭痛や肩こり
  • 耳鳴りやめまい

顎関節症の治療法

かつては、顎関節に針を刺して洗浄する治療が主流だった時期もありましたが、現在ではほとんど行われていません。当院では、長年顎関節症の治療に携わってきましたが、重度の症状で食事もままならないような患者様でも、マウスピースの装着など、比較的簡単な方法で1年後には症状が改善するケースがほとんどです。つまり、顎関節症は多くのケースで自然治癒する傾向があると言えます。

基本的な治療としては、非ステロイド性鎮痛剤の服用や、夜間にマウスピースを装着していただくことが中心となります。また、食いしばりは仕事のストレスなどが大きく影響するため、リラックスを心がけ、睡眠時の食いしばりを抑制することも重要です。

ただし、顎関節症に精神疾患や線維筋痛症などが併発している場合は、治療が難しくなることがあります。その際は、他の診療科と連携した包括的な治療が必要となります。

顎関節症でお悩みなら相模原敬友会歯科へ

当院では、顎関節症の専門的な知識と経験を持つ歯科医師が、患者様一人ひとりの症状に合わせた適切な治療を提供いたします。顎関節症でお悩みの方は、ぜひ当院へご相談ください。

提示された歯列模型を基に、プラスチック製のカスタムマウスピースを作製します。このマウスピースは、顎関節症の治療を補助するための装置です。親知らずが存在する場合は、必ず親知らずを含む全ての歯列を装置に含める必要があります。通常、この装置は上顎に装着します。

コラム 

顎関節は、その構造と機能において高い適応性を示す部位です。歯科医師は、顎関節のわずかな変化にも注意を払い、顎運動解析装置などを用いて詳細な分析を行うことがあります。しかし一方で、先天的に顎関節を欠損している患者様であっても、多くの場合、日常生活に支障なく食事をすることが可能です。この事実は、顎関節が持つ驚くべき適応能力を物語っています。

若い人の顎関節

顎関節は、下顎骨の下顎頭と側頭骨の間に位置し、食事や会話など、日常生活において重要な役割を果たしています。図で示されるような理想的な形状とは異なり、実際の下顎頭は個人差が大きく、様々な変形が見られます。また、関節円板は、これらの骨が直接接触しないようクッションの役割を果たしていますが、MRIなどの画像診断を行うと、位置のずれや摩耗が見られることも少なくありません。しかしながら、このような変形やずれが見られても、多くの方が特に不自由なく生活を送られています。これは、顎関節が持つ高い適応能力によるものです。



症例

今回、私たち相模原敬友会歯科が注目したのは、以前より関連法人である小机歯科にご来院されていた70代の女性患者様の症例です。この患者様は、日頃から義歯を装着されており、日常生活を送られていました。ある日、いつものようにゴミ出しのために家の外に出られた際、足元のわずかな段差に気づかず、不運にも躓いて転倒されました。その際、下顎を地面に強く打ち付けてしまい、激しい痛みを覚えられました。転倒直後から、患者様は口を開けることが困難になり、食事や会話にも支障をきたすようになりました。しかし、高齢であることや、痛みが徐々に和らいできたことから、医療機関を受診することなく、しばらくの間、症状を放置されていました。

約1ヶ月後、患者様は口が以前より少し開くようになったことに気づき、近所の整骨院を受診されました。しかし、整骨院ではレントゲン撮影などの精密な検査は行われず、症状についての詳細な診断や適切な治療が行われることはありませんでした。そのため、患者様は経過観察という形で、症状の推移を見守ることになりました。

そして、転倒から約1年後、患者様は長年使用されていた歯の被せ物が外れてしまったため、当院を受診されました。そこで、初めてレントゲン撮影を行ったところ、右側の顎の骨、特に下顎骨の下顎頭と呼ばれる部分に骨折が認められたのです。

しかしながら、驚くべきことに、患者様は現在、食事において全く不自由を感じておらず、噛み合わせにも目立ったずれは見られませんでした。さらに、CT検査を行ったところ、骨折した骨の断片は、幸いにも周囲の組織に大きな影響を与えるような位置にはなく、骨折部位の周辺組織との癒合も良好でした。患者様が長期間にわたり骨粗鬆症の治療薬を服用されていたことも考慮し、今回は手術などの積極的な治療は行わず、骨折部位の経過観察を継続することとなりました。

今回の症例を詳細に検討した結果、骨折部位は顎関節内の関節円板に非常に近い位置にあることが判明しました。通常、下顎骨骨折は、口腔外科において外科的な手術を行い、骨片を元の位置に整復することが一般的です。しかし、今回の患者様の場合、特別な治療を施さなくとも、骨折部位は自然に治癒に至ったと考えられます。これは、患者様の高い自己治癒力と、骨折部位が関節円板周辺という、比較的治癒しやすい部位であったことが幸いした結果であると思われます。結果的に、今回の患者様は、非常に幸運なケースであったと言えるでしょう。

顎関節のレントゲン写真事故前
顎関節のレントゲン写真事故後
顎関節の事故後のCT

転倒前に撮影したあったレントゲンでは、顎関節に異常は見られませんでした。しかし、転倒から一年後に撮影したレントゲンでは、関節頭が骨折していました。さらに、歯科用CT画像を確認すると、骨折した関節頭が顎の内側に落ちていることが分かりました。通常、このような状態では何らかの機能障害が起こることが考えられますが、患者様は特に不自由を感じていません。