相模原敬歯科の同一法人の小机歯科医院では、メール相談を27年前から行っています。色々な相談が寄せられますが、一番多いのが、根管治療に関係するトラブルや相談です。その中から質問の多い内容を編集して掲載いたします。
質問:そもそも根管治療って何ですか?
根管治療が必要と言われました。どんな治療ですか?痛いのですか? 神経を取るといつ治療ですか
答え
硬い歯も実は中身は柔らかい組織が入っているのです。それを歯髄と呼んでいます。治療の際、歯髄を麻酔が効いていない状態で触ると激痛がするので、神経と俗に呼ばれる場合があるのです。
この歯髄に何らかの細菌感染を起こしてしまった場合にこの根管治療が必要になります。その原因としての多くは虫歯の様に外側の硬い部分が細菌の出す酸により溶かされてしまった場合や、歯にヒビが入った場合があります。
そして、この歯髄という部分は非常に弱い組織なのです。人体の通常の組織の場合、細菌感染を起こしても免疫システムにより組織が壊死する様な事は通常ありません。例えば、指先に怪我をした場合に、指の周りの皮膚や筋肉が壊死をして脱落したなんてことは通常起こりえません。しかし、歯髄は少しの感染でも壊死をしてしまい、抗生物質の様な薬では無効な場合が多いのです。
ですから、一言でいってしまえば、根管治療は、壊死をしてしまった歯髄組織を取り出して、その中を洗浄します。そして歯髄があった場所に人工的な詰め物をする治療なのです。
そして、重要なのが、歯髄が体の中から栄養をもらっていたパイプラインが通っていた根尖孔という孔を緊密に閉鎖することなのです。
治療は原則的に麻酔をしてから行いますので、治療中の痛みはありません。ただし、治療後麻酔が切れてくると鈍痛がある場合があります。それでも痛み止めでコントロールできる範囲です。
質問:根管治療にマイクロスコープは必要ですか?
根の治療をしなければならないと歯科医院で言われました。マイクロスコープのある歯科医院を勧められました。その方が良いのでしょうか?
答え
無くても根管治療治療はできます。しかし、有った方が正確な治療ができます。
マイクロスコープは歯科用顕微鏡と言われます。しかし、細菌を見るような顕微鏡ではありません。4倍から24倍程度に拡大してみる、拡大鏡の一種です。ただ、根管治療の場合、見えるのは根管と言われる入口程度で、せいぜい見えても根管の半分程度までしか見えません。それは歯根は曲がっているからです。よって、根の先端の付近は手探りで行うしかないのです。ただし、歯はとても小さいもので、それも口の中の奥に存在していますので、肉眼で見るのはなかなか難しいのです。よって、根管の入口が見えるだけでも、相当、治療がしやすいのです。
解説:歯科用マイクロスコープとは
相模原敬友会歯科のマイクロスコープ
ドイツ:カールツァイス社製
細かい部分まで、見ることができます。
相模原敬友会歯科のマイクロスコープ5台は全て、ドイツのカーツァイス社の製品です。現在、敬友会の歯科医院では29台のマイクロスコープが設置されていますが、2台を除いて全て同社の製品です。これは、ブランドだからではなく、モラー機能という特許の機構があるからです。これは、歯科医師が覗く接眼レンズが常に床に平行という機構です。この機構のおかげで患者さんは、あまり無理な体制を取る必要がなくなり、スムーズに治療を進める事ができるようになります。
質問:いつ終わるのか見通せない根の治療について
半年以上、近所の歯科医院に毎週通って、根の中の治療をしています。しかし、一向に終わらないばかりか、痛みも増してきました。そしてその旨を伝えると、抜歯しか無いと言われました。今更そんな事を言われてもと思います。何とか歯を残せませんか?
答え
恐らく、根の中で雑菌が増殖してしまって、制御不能になったのだと思います。
日本の根管治療は、根の中に薬剤を染みこませた綿を入れて、その経過を見るのが一般的なのです。そして、歯を叩いて痛くなくなるのや咬めるようになるのを待つのです。ですから、いつまで経っても治療が終わらないのです。
しかし、この様な事をしていると、逆に雑菌が繁殖してくる事が多々あるのです。結局、歯科医師も制御できなくてお手上げ、抜歯宣言となるのです。
実は、この様な事は米国では行われていないのです。しかも1.2回で治療は終わるのです。
何で、日本では半年かかる治療がアメリカでは1,2回で終わるのでしょうか?
これは考え方と治療方法が違うのです。
簡単に言うと、日本の方法は治るのを待って根の中を詰めると言う考え方です。しかし米国での考え方は、しっかり根の中を詰めれば治ると考えています。
そして治療方法の違いとしては、根の中の洗浄は共通なのですが、根の中の詰め方が違うのです。日本の多くの場合は、固形物に糊の様なペーストを付けて根管内に入れてスペースを塞ぎます。しかし、一番大事な根尖孔と言う歯と歯の外の境目の蓋がしっかり出来ていないのです。
しかし、アメリカで行われている米国式の根管治療の場合は、固形物を詰め込んだ後に200度程度の熱をかけて軟化させて根の先を塞ぐのです。つまり、根の先が密閉できるのです。
この密閉が大事なのです。密閉すれば、根の中から細菌や色々な化学物質が流出する事が無くなります。そうなると痛みや不具合はピタッと止まるのです。
ワインの瓶を想像してみて下さい。日本の場合はワインの瓶入口を塞ぐのに割り箸に糊を付けて何本か押し込む様な方法です。ですから、殆どの場合、逆さまにするとワインは漏れ出てしまいます。しかし、米国式根管治療の場合は、コルクを詰め込む様な方法なのです。この違いです。
ただ、米国式根管治療にも欠点があるのです。それは固形物を詰め込んでから、熱した楊枝の様な器具を根管内に押し込んで固形物を軟化させるのです。この場合、根管をかなり削っておかないと楊枝が入らない事と、熱が固形物を全体に溶かせるとは限らないのです。よって、根尖孔の部分が固形物のままですと、治療効果は望めないのです。
私ども医療法人社団敬友会:相模原敬友会歯科ではこの欠点を改良した方法で治療を行っています。固形物では無く、軟化した状態で根管内に詰め込んで圧入する方法です。この方法ですと、根管内を必要以上に削る必要が無い事と、根尖孔の閉鎖が確実に行えるのです。この方法にはしっかりしたエビデンスが存在しています。10年以上に渡る治療成績も開示しております。
相模原敬友会歯科では、マイクロスコープと言う拡大装置を使って治療をしてまいります。そして、治療回数も前歯なら、1、2回。奥歯なら5回以内に終了します。
この5回は何をしているのかと言えば、様子を見ているような事ではありません。根の先の根尖孔を見つける。そして密閉する為の材料が到達できるように根管の中の道を作ります。そして出来上がったら充填する。それだけです。
密閉できれば、自発痛や咬むと痛い咬合痛は1週間から1か月経過すれば、消失し治ります。
解説:日米での考え方と手技の違い
症状がなくなってから、それなりに根の中を詰める方法
適当に根管の中を削ってから、薬剤を浸した綿を交換し続けます。綿が湿っていたり、歯を叩いて痛かった場合は、根管充填は見送りです。つまり症状が改善するのをひたすら待ちます。
殆どの施設で側方加圧根充法により根管充填をします。根尖孔の完全閉鎖は、ほぼ出来ないので痛みが残る場合があります。又、症状が無くても歯根のう胞等を形成してしまう場合があります。
日本の健康保険の根管治療の診療報酬は発展途上以下に設定されています。よってこの側方加圧根充の様な治療方法になるのは、仕方がないとおもいます。よって他の歯科医院を批判するものではありません。
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根尖孔をしっかり閉鎖する事により積極的に治癒に向かわせる方法
根尖孔をしっかり閉鎖するために、根管内を削って整えます。薬剤を浸した綿を入れて症状が治まるような事はしません。水酸化カルシウムのペーストを入れておく場合もあります。
根尖孔を閉鎖できる規格に根管形成が達したら、根管充填をします。ピンセットで叩いて痛いかどうかは調べません。そして熱で一時的に軟化させたガッタパーチャで根尖孔を閉鎖します。閉鎖状況はレントゲン撮影で確認をします。もしも根尖孔の閉鎖が出来ていない場合は、根管充填のやり直しをします。
根尖孔をしっかり詰めれば、歯自体が生体から隔離されるので、症状も無くなり周囲の傷も治癒すると言う積極的な考えです。日本で一般的に行われている側方加圧根充法を主体とした方法よりも、根管形成に時間がかかります。そしてテクニック的にも難しいです。しかし、予後は格段に良いです。難点は術後1週間から1カ月は咬むと痛い点です。ただし、何年後かに歯根のう胞が出来てしまう確率も非常に低いです。
相模原敬友会歯科では、米国式の根管治療の考え方を基にし、さらに日本人のもつ繊細さで根尖孔を扱う、ケースルクト法を基準にした治療法を採用しています。
質問:前歯に歯根のう胞ができて、抜歯と言われました。
32歳の主婦です。
高校生のころ、歯科医院に行ったら前歯が虫歯と言われました。別に痛みもなかったのですが、神経をとる治療を受けました。そして最近、顔を洗うときに鼻の下あたりを触ると違和感があったので、歯科医院に行ってみてもらいました。そしてレントゲンを撮ってもらったら、歯根のう胞なので抜歯ですと言われました。私としては、この歳で前歯を抜くなんて受け入れられません。抜く以外の方法はありませんか?その歯は見た目は少しくすんだ色ですが、被せていません。
答え
抜歯などの外科処置はしなくても治る可能性はあります。
前歯部の歯根のう胞。これは非常にポピュラーな疾患です。神経(歯髄)を取っていない歯には絶対にできません。この多くは根管治療の不備によって生じます。それは根尖孔と言う部分の閉鎖不全でおこります。レントゲンを撮影すると、通常は根の先に黒い影が映ります。又、歯科用のCTを撮影すると根の先に球形の黒い透過像が観察されます。この歯根のう胞は、本来は骨の部分にできる袋状の構造物です。これ自体が生命を脅かす事はございません。しかし骨を吸収してしまい、触ると違和感が有ったり、感染をすると腫れる事が有ります。徐々に大きくなる傾向があります。経過観察とする場合もありますし、早めに対処をした方が良い場合があります。それは年齢や部位、大きさから判断をします。
一般的には、この歯根のう胞は、外科的に取り去るしか無いとされているのが定説です。よって歯ごと取り去ってしまう抜歯か、根の先にある歯根のう胞を取り去ると共に根の先を削ってしまう歯根端切除術が行われます。
しかし、私どもは、歯根のう胞は根管治療で治る場合が多いと考えています。それは実際に治っている例がかなりあるからです。
治療は、外科的な事はしません。麻酔はしますが、根の中の充填材を全部外し、洗浄後、垂直加圧根充法であるケースルクト法で根尖孔をしっかりと充填して経過観察をします。治療回数は1回か2回です。すると半年後にはかなりの確率で、レントゲン上の黒い部分が縮小し、歯根のう胞であった部分が骨に置換して来るのが観察されます。当然、症状はなくなります。おそらく、生体が歯根のう胞を貪食して消失させて骨に置換させているのだと私どもは考えています。
外科的な治療をしなければならないと言われた歯が、たった1、2回の通常の歯の治療で治るなどというと、ウソか、トンデモない治療かと思われる方も多いと思いますが、根管充填法を変えて根尖孔の閉鎖を改善するだけで治る場合もかなりあるのです。(それだけ側方加圧根充法はあまり好ましくなく、最初から垂直加圧根充をしていれば、この様な歯根のう胞はまずはできません)
ところで、もしも、前歯を抜いてしまった場合には、ブリッジかインプラントが考えられます。しかし、前歯のブリッジは両側の健全な歯を削る必要が有る事。それと健全な歯はなるべく連結しない方が良い事。その事から考えると、若い方にブリッジはお勧めできません。
インプラントをするにしても、人種的にモンゴロイド系の場合、前歯の骨は薄い場合が多い事。よって人工的に骨を造ってインプラントをしても、増骨した部分の骨がいつまで安定して存在しているかは分からない事。等を考えると、インプラントは出来るかぎり避けたいものです。
よって、前歯の抜歯や歯根端切除と言われた場合は、ご相談ください。医療に100%はございませんが、ケースルクト法による根管治療を行ってもダメだったら、外科療法をしても遅くは有りません。
尚、歯根が折れているケースや、既存の被せものや土台を外すのが困難なケースはケースルクト法の適応にはなりません。
解説:歯根嚢胞(しこんのうほう)とは
歯髄(神経)が生きている歯には絶対にできません。必ず、歯髄が無い歯に出来ます。よって根管治療後に生じる場合が有ります。それではどの様な場合に出来るのでしょうか?これは否定意見はあるかもしれませんが、私どもの経験からすると、根尖孔の閉鎖不全により起こると考えています。
通常は無症状の場合が多く、この歯根のう胞に感染が起こった場合や、歯科医院のレントゲンで偶然発見される場合が多いです。
レントゲンでは、根の先に黒い影として映ります。多くの歯科医院では、この黒い影が見えると「膿の袋」が根の先に有りますと言います。しかし、これは間違っています。歯根のう胞だとしても感染していなければ膿は形成されていません。更に、黒ければ全てが歯根のう胞ではありません。歯根肉芽腫と言うのもあれば、ただの瘢痕(かさぶた)の様な場合も有ります。これらを確定的な診断をしようとすれば、抜歯や歯根端切除術という外科処置をして病理組織診断をする必要があります。しかしそのような事は殆どしません。
治療対象は、若い人の前歯部の歯根のう胞や、歯根のう胞が感染して痛みのある場合です。単なるレントゲン上の影でしたら経過観察とする場合も多いです。
治療は、歯根のう胞でも、多くは再度の根管治療を行い、根尖孔の完全閉鎖をすれば、多くは縮小して治癒に向かいます。この根尖孔の完全閉鎖は日本で広く行われている側方加圧根充法ではなく、垂直加圧根充法を用いる必要があります。これを適切に行うと、歯根端切除術や抜歯は不要な場合が多いです。
又、歯根のう胞にならないためには、最初から垂直加圧根充法による根尖孔閉鎖をしておく必要があります。相模原敬友会歯科では、すべての根管治療は垂直加圧根充法で行っています。
質問:根の治療をして被せました。でも、咬むと痛い事があります。
45歳の男性です。
半年以上かかって、左下の奥歯の根の治療をしてもらいました。根の治療は終わったので金属で被せてもらいました。しかし、時々、咬むと痛い事があります。特にイカの刺身の様な弾力性の有るモノを咬むと違和感があります。これは異常でしょうか?
答え
根管治療後の咬めない原因としては2つ考えられます。1つ目は根管治療の不備です。根管治療は、炎症を起こしてしまった歯の中の歯髄を取って、その部分に充填材を入れると共に根尖孔という生体とつながっている部分に蓋をします。しかし、この根尖孔の閉鎖が悪いと、そこから色々な化学物質や細菌が根の先に出てきて炎症を起こします。体調が良い時はご自身の免疫で抑えられている症状も、そうでない場合は炎症が再燃して咬むと痛い場合がでてきます。治療は根管治療のやり直しです。根尖孔をしっかりと閉鎖すれば多くの症状は消失します。
2つ目の原因として考えられるのが、被せた冠(クラウン)の形態不良の場合があります。特に歯ぎしりをした場合に、その歯だけ強くチカラがかかる場合があります。体の一部を殴られるとそこが腫れて炎症が起こるように、口の中でも、過度なチカラにより炎症を起こす場合があるのです。治療は被せものの形態を正しくすることです。又、場合によっては歯列矯正が必要なことがあります。
解説:根管治療後のトラブルの数々
①パーフォレーション(穿孔)
回転系の器具を誤った方向に進めて削ってしまい、歯の中から外側の歯周組織に向かって孔を開けてしまった場合。現在では、MTAセメントで穴埋めをすれば修復する事が出来るようになり、多くの場合は長い間、問題なく使える様になりました。
②ストリップパーフォレーション
根管の中に太くて長い回転系の器具を入れてしまい、歯の側壁に孔を開けてしまった場合です。この場合も根管治療後にストリップパーフォレーション部にMTAセメントを充填すれば、修復する事が出来ます。
③根尖孔の閉鎖不全による根尖病変
日本での治療では4割以上に生じていると言う報告がある位にポピュラーな疾患です。経過観察で良い場合も多いですが、痛み等がある場合は根尖孔の完全閉鎖をすれば治癒する場合も多いです。
④根管側枝の閉鎖不全による病変
歯の中には歯髄と言う組織が入っています。多くは根尖孔から血管等が入っています。しかし、バイパスがある人がいます。それが側枝です。細い場合は殆ど問題にならないですが、根尖孔に準じる直径がある場合は、閉鎖をしないと病変が生じる事があります。垂直加圧根充を行い側枝を充填する事により骨まで再生して治癒する場合が多いです。
⑤根尖孔の過剰拡大及び固形根充材の押し出しによる根尖病変
根尖孔まで機械的な器具を押し込んで広げてしまったり、症状が改善しないために、誤った考えで根穿孔を広げてしまう場合があります。通常0.2〜0.3ミリ程度の孔ですが、これを1ミリ程度に広げてしまうと、激烈に痛む場合があります。そんな状態のところに、固形の根管充填材を入れてしまうと根尖孔からすっぽ抜けて周囲組織に刺さってしまう様になります。この場合、ずっと咬めなかったり、慢性疼痛に悩まされる事がある様です。この場合も出来る限り、固形の根管充填材を取り除いて、垂直加圧根充法で根尖孔の完全閉鎖をすれば、多くの症例で治ります。
⑥歯根破折
根管治療をして数年してから起こる事が多いです。歯槽骨内で歯根が折れてしまって、咬めない等の症状が有れば、抜歯の適応となります。
質問:歯性上顎洞炎と言われました。
最近、鼻づまりや頭痛が有るので、耳鼻科に行きました。レントゲン等で、歯が原因ではないかと言われました。そして歯医者に行ったところ、歯性上顎洞炎が酷いので、抜歯をしないと治らないと言われました。何とか抜きたくないのですが、何とかなりませんか?
答え
根管治療で治る場合もかなりあります
この様な歯性上顎洞炎は良くあります。多くは上顎の大臼歯という奥歯の根の治療に問題があり、その上の上顎洞という部分に炎症を起こしてしまうのです。つまり、上顎洞に原因が有る訳ではなく、お隣に歯に原因があり、上顎洞に炎症が起こっている場合です。多くの場合は無症状です。しかし、体調が悪く免疫状態が下がった場合等に症状が出てくる場合が有ります。まずは歯科用CTでの立体的な観察が必要です。
治療は、原因が歯に有りますので、その原因を取り除けば上顎洞の炎症は治ります。つまり、抜歯をしてしまえば炎症は治まります。しかし、当然ながら咬む歯を失います。よって抜歯以外となると、やはり根管治療です。その治療は簡単に言えば、被せもの、土台、根の先に詰まっている充填物を全て綺麗に外します。そして洗浄消毒をして根尖孔をしっかり閉鎖します。こうしますと、歯が原因の上顎洞炎はかなり治ります。
しかし、歯の中の土台がグラスファイバーで作って有る場合や、あまりにも大きな金属の塊で作って有る場合は、土台が外せなかったり、外すことにより歯を傷つける可能性が有る場合は、根管治療による対象にはなりません。
解説:歯性上顎洞炎とは
上顎洞とは、上顎の奥歯の上方の頭蓋骨内における空洞です。空洞には絨毯の様な粘膜があり、自然孔という孔で鼻腔に換気されています。この上顎洞粘膜を中心に上顎洞内に感染が起こり炎症を来した状態を上顎洞炎と呼びます。風邪をひいてもなる場合があります。目の下が重苦しかったり、頭蓋骨のてっぺんを足先に向けると頭痛が激しくなったり目の周囲が痛くなったりします。一般的には蓄膿症とよばれます。
この上顎洞炎が歯が原因で起こることがあります。これが歯性上顎洞炎です。この歯性上顎洞炎は歯科用CTの普及により、以前よりもはっきりと診断が出来る場合が多くなって来ました。
簡単にいえば、歯の先にある根尖孔が上顎洞に近い位置にある人は、歯の中の細菌が根尖孔を通じて上顎洞内に侵入して感染を起こします。急性の感染症もありますが、一般的には慢性的な感染症の病態を呈します。つまり、体調が悪いときにだけ、症状が出ることが多いのです。
治療は、歯の根管治療です。しっかりと根尖孔を閉鎖すれば大抵の歯性上顎洞炎は治ります。ただし、歯が関係ない上顎洞炎であった場合は、歯の治療をしても改善はしません。
質問:あなたの歯は根管治療ができないと言われました
30代。男性。
以前、他の医院で治療をした奥歯が痛いです。そこで近所の歯科医院で診てもらいました。しかし土台が外せないという事で、治療ができないので、抜歯と言われました。この歯を何とかできませんか?
答え
まず、痛い原因は何かです。歯根が折れて痛い場合は、抜歯が必要になります。接着剤で張り付ければ良いと思われるかもしれません。この場合、折れた面が新鮮であり、時間が経っていない場合は、接着法である程度までは持たせられます。しかし、いつまで持つかは分かりませんので暫間的な処置なのです。
歯根が折れていない場合は、根管治療の適応になる場合があります。しかし問題は再治療の場合、根の先の根尖孔に至るまでの全てを外す必要があることです。つまり、被せものを先ず外します。これはそれほど外すのに苦労はしない場合が多いのですが、問題は次の土台にあります。これが安全に外せるかどうかが、治療ができるか出来ないかの分かれ道になります。
この土台の素材は大きく分けて金属かレジンです。金属の場合は銀合金を使用してある場合が多いです。しかし、根管の中に差し込むように設置してありますので、削って外すしかないのです。これが非常に大変な作業になります。全て削って外すのに1時間以上かかる場合があります。それも細い根管の中で、なるべく歯の部分を削らないようにしますので、非常に神経を使う作業になります。
そして、グラスファイバーを中心に入れてレジンを使って有る場合は、外すのが危険な場合が殆どです。それは、グラスファイバーの場合、金属よりも根管内の根尖に向かって差し込んで有る場合が多いからです。この様な場合、歯を削るドリルがそこまで届かないのです。更に、グラスファイバーの場合、金属と違って、周囲の歯の色と同じ程度に見えるので、土台のみを削るのが非常に困難なのです。
この土台を外すのは、穿孔と隣り合わせですので、歯科医療行為としては非常に神経を使います。更にマイクロスコープを使うのが必須になります。
しかし、マイクロスコープを使い、穿孔の危険があるのに、トータル2時間かかって被せものと土台を全部を外しても、健康保険での診療報酬は8百円と決まっています。それでも、歯科医師は頑張ってこれらの診療を行っても、最終的には歯根が折れていたという事もあるのです。
よって、この様な事情を考えると、歯科医師も出来ないと言わざるをえない場合もあるのです。
そして、土台を外し終わったら、今度は根管充填材を外してまいります。殆どがガッタパーチャという有機素材ですが、中途半端に外すのではなく根尖孔までの完全除去が必要になります。よって、この作業もマイクロスコープを使って根気よく行う必要があります。
そして、根尖孔を発見したら、根管内を洗浄・消毒して、根尖孔にしっかりと充填を行う根管充填を行って、経過を見て行きます。
解説:再根管治療のための除去
①冠:外側の被せものを先ずは外します。金属やセラミック製であり、金属は見た目では硬さが分からない場合もあります。コバルトクロム合金やチタン合金の様な硬い金属が使われていたりすると削りにくく大変です。セラミックの場合はジルコニアが使われている場合が大変です。
➁土台:一番外すのが大変な部分です。根の中に差し込んであるので、削り取るしか有りません。この場合、歯を削らないで選択的に土台を削る必要があります。金属でもレジンでも深い部分になると、削る機械のヘッド部分自体が視界の邪魔をします。よって見えない部分を高速回転で削り取る必要があります。ですから、少しずつしか作業ができないので、時間がかかるのです。
③ガッタパーチャ:この部分も外すのは大変なのですが、削り取らなくても溶剤で溶かしたり、少しずつ掻き出す事が出来るので、土台を除去するよりマシになります。しかし、全てを取り去るのはかなり根気が必要な作業になります。ただ、最終的な目的は根尖孔の発見と根管内の洗浄消毒です。しかし、前医により根尖孔付近での無理な回転系の器具の使用をしてあったりすると、本来の根管では無い方向にステップが付いていたりして、根尖孔の発見に苦労する事もあります。
又、根管の数は歯の種類により異なりますが、大臼歯(奥歯)では3根管は当たり前ですので、全ての根管への作業が必要になります。
そして、不思議な事に、健康保険の診療報酬は、最初に歯髄を取る治療である抜髄処置と再度の根管治療である感染根管治療では、感染根管処置の方が低い点数なのです。どう考えても再根管治療の方が時間とテクニックが必要です。
更に、前医の治療によっては、パンドラの箱を開けてしまう事もあるのです。これは、簡単に言うと、隠されたミスに気が付かないで、手を付けてしまうと、それが露呈し、収拾が付かなくなることです。つまり、症状は多少有っても咬めた歯を治療として手を付けてしまうと、抜かなくてはならない様な症状が出てしまう事なのです。ですから、あまり症状の無い場合は、経過観察の方が良い場合が多々あるのです。
質問:症状がないのですが、治療は必要ですか?
40代女性:先日歯科医院に行きましてレントゲンを撮りました。すると、根の先に膿の袋があるので、治療をしなければなりませんと言われました。しかし、全く症状は有りません。痛くもありませんし、咬むのにも全く支障がありません。このまま放置しておくと良くないですか?
答え
相模原敬友会歯科では、この様な場合は経過観察とします。どちらかと言えば、触らない方が良いと考えています。
それは、膿が溜まっているわけでは無い場合が殆どだからです。もしも膿が溜まっていたら、痛みが有るのが通常です。しかしそうで無い場合は、慢性の何かの病変があると考えるのが普通です。実際には、傷が治った時にできる瘢痕(かさぶたみたいなもの)や、慢性炎症に伴う組織の反応だったりします。実際、日本で行われた根管治療では半数程度に根の先に影が見えるとの報告も有ります。
そして、この様な場合、長年に渡り同じようなレントゲン画像に変化が無い場合も多数です。敬友会歯科では実際に経過観察をしている方はたくさんいらっしゃいます。
また、敬友会歯科では、全国から根管治療の患者さんがお見えになります。その中で多いのが、この様な場合に対するトラブルです。
つまり、歯科医院を受診して、レントゲンを撮影したら、たまたま見つかった根尖病変(病巣)を指摘された場合です。何の症状も無かったのですが、歯科医師にそう言われたので、治療を開始。しかし、その治療を開始した途端に痛みが出て、それがずっと治まらないパターンや抜歯宣告となってしまった場合です。
この様に症状が出てしまうと、日本で行われている根管治療では先ずお手上げになってしまいます。それは、症状が治まるまで根の中は詰めてはならないと教わっているからです。しかも、国家試験の正答に含まれているからです。
しかし、この様に症状が出てしまっても、米国や当会で行っている垂直加圧根充法で根の先の根尖孔をしっかり閉鎖してしまえば、痛みも治まり治る場合が多いのです。しかし、日本で行われている側方加圧根充法は、残念ながら殆どの場合で根尖孔の密閉は殆ど不可能なので、症状はいつまで経っても治らない場合が多いのです。
つまり、結論としては、症状のない歯の根の影は経過観察。放置では有りません。
そして、経過観察中に影が余りにも大きくなる場合や、症状がでた場合には、的確な治療をすれば治る場合が多いのです。ただ、長年に渡り無症状だった神経を取った歯が痛み出した場合は、歯根が折れている場合も多いので、色々な鑑別診断が必要になります。
症例:経過観察をしている症例
初診時40代 女性
2010年に来院された際に、右下の一番奥の歯に根尖病変を認めました。しかし、何の症状もないので根尖病変の存在を知らせて経過観察をしています。冠の形態も良くはないのですが、この形で安定しているはずですのでこれも含めて経過観察をしています。
症状は全く無いそうです。根尖病変も殆ど変化がないと思います。もしも2010年の時に、下手に治療を開始していたら、今頃歯は無かったかもしれません。
もちろん、現在でも問題なく咬めるようです。
質問:ラバーダムは絶対に必要なのですか?
ラバーダムというゴムのマスクをしないと根の治療はできないので、抜歯と言われました。ほんとうですか?
ラバーダムは歯科治療に用いる器具です。多くの歯科医師のホームページは最重要の要素の様に書いてある場合が多いのです。しかし、根管治療の成功には他の要素の方がもっと大事です。それが、適切な除菌と根の中の充填です。
決してラバーダムを否定する訳では有りません。ただ、ラバーダムを使用しなくても、しっかりと根管(根の中の管)を除菌して、根の先にある根尖孔さえしっかり充填してしまえば、治る場合が多いのです。
また、日本で広く行われている側方加圧根充法では、根尖孔を完全に閉鎖することが困難なのです。この方法では例えラバーダムをしたとしても違和感や咬んで痛い事が治らない場合が多いのです。
以上の要点を考慮すると、根管治療の成功においてラバーダムの装着は準備段階であり、根尖孔の緊密な充填が最も重要な要素であると言えます。
ラバーダムの使用に関しては文献的には優位性が示されていますが、最終的な治療内容や根管充填法の要素が予後を左右するため、その重要性は限定的です。
ラバーダムが最も威力を発揮するのは、小児歯科の治療です。これは使用するかしないかで、大きな予後の差が出ます。
解説:ラバーダム
ラバーダム
ラテックス(天然ゴム)で出来た、薄いシートを使います。ラテックスアレルギーの方は、天然ゴム以外の素材でできたシートを使います。これらのシートは使い捨てです。
質問:MTAセメントで根管治療をすると良いのですか?
MTAセメントで根管治療をすると良いのですか?
MTAセメントだけを根の中に詰め込んでしまって充填するのは無理があります。根の先にある根尖孔をしっかりMTAセメントでしっかりと閉鎖できれば良いですが、単独では無理な場合が多いのです。よってガッタパーチャという材料と併用します。また、MTAセメントではなく、同じような性質を持つバイオセラミックガラスで出来たセメントを使います。このセメントは膨張する性質があるので、根尖孔の閉鎖を持続できると考えられています。