根管治療(こんかんちりょう)の基本
歯の基本構造
歯の構造として歯の中には歯髄と言う柔らかい組織があります。そこに細菌が感染する事により痛み等を生じます。この歯髄以外の人体の組織の中で細菌が感染したからと言って、直ぐに壊死(細胞が死んでしまう)する様な組織はあまり無いと思います。通常の組織なら、抗生物質でも服用していれば、治ってしまいます。しかし、この歯髄は硬い歯質に囲まれていて、栄養が供給さえるのが、根尖孔と言う0.2~0.4ミリ程度の孔だけですので、容易に壊死をしてしまうので、根の中の治療が必要になってくるのです。
つまり、根管治療が必要なのは、歯髄が壊死してしまった歯、又は、壊死する寸前の様な歯なのです。症状で言えば、歯が痛くて寝られない様な場合や、咬んで痛い場合でも必要な場合があります。
歯のためには、できれば、なるべく行わない方が良い治療です
根管治療は、歯髄に広範囲に細菌感染が生じた場合に、歯を残す最終手段とも言えます。適切に治療をすれば再度、咬むようになる場合が多いのですが、歯の内部を削りますので、咬むチカラに対して構造的に弱くなるのです。よってなるべく、歯髄に感染を起こすような事をさせない事が重要なのです。つまり、虫歯の放置をしない、又は歯にヒビを入れるような食生活をしない事なのです。
又、多少に歯髄の感染の場合、水酸化カルシウム、MTAセメント、ヨード製剤、抗生物質等で根管治療を回避する事が出来るようになってきました。これを覆髄処置と呼びます。この様な処置をしてから、どうしても感染が進展して痛みが有るようなら根管治療をする方が良いです。
根管治療には2種類あります
根の中の治療ですから根管治療なのですが、私ども歯科医師が扱う上で、大きく分けて2つに分類がされています。それは最初の根管治療なのか、やり直しの根管治療(再根管治療)なのかです。難しいのは当然、難しいのは当然、再根管治療です。
歯の根が割れてる様な場合は、再根管治療の対象にはなりません。
一度も治療がされていない歯の根管治療
歯髄が辛うじて生き残っている場合から、壊死している場合。歯髄の中には柔らかい組織しか存在していませんので除去は容易です。しかも他の歯科医師による歯髄腔外への穿孔などはあり得ません。よって治療はしやすい状態です。
再根管治療
根の先の病変にアプローチするためには、①〜④までのマテリアルを全部、完全に除去する必要があります。①は金属かセラミックの冠➁多くはレジンと言うプラスチック③グラスファイバー又は金属④ガッタパーチャ。健康保険の場合、これらをマイクロスコープを覗いて1時間かけて外しても800円程度の診療報酬となっています。
再根管治療は必要か?
歯科医院に行ってレントゲンを撮ったら、「根の先に膿が溜まっているから根の治療が必要」と言われ、そしてその歯の治療を開始。ところが、治療を開始した途端に腫れて収拾がつかなくなり、抜歯を宣告されるパターンがかなりある様です。私どもでは、この様な歯に関しては、症状が無ければ治療が必要とは考えていません。経過観察としています。そもそも症状が全く無い歯に膿が溜まっているのは稀であり、多くは肉芽組織と言う骨では無い組織に置換しているだけの場合が多いからです。つまり、レントゲンに変化が有っても、症状が無ければ経過観察の方が良いと考えています。
根尖病変の10年の変化(レントゲン写真)
根の先に影がある、いわゆる根尖病変と言われる状態です。被せものも後ろが高いような決して良い状態ではありません。当院ではこの様なケースも経過観察としています。 実際に12年経過をしていますが、何の症状もありません。よく、根の先に膿が溜まっていると言われるケースだと思います。しかし、本当に膿が溜まっているのでしょうか?そんな状態でしたら、当然、症状は有るはずですし、悪化するはずです。おそらく、これの状態は 病的状態ではなく、瘢痕(かさぶた)状態であると考えるのが妥当だと思います。
根管治療の基本的な治療の流れ
抜髄症例(再治療ではない)で説明をします
①虫歯になってしまい、細菌が歯髄の中にまで入り込み増殖をした状態です。夜中に痛くて目が覚めたりします。又、どこの歯が痛いのかが特定しにくいのも特徴です。まず、どこの歯が痛いのかを診査診断をします。
➁壊死した歯髄組織を除去します。そして丁寧に根管内を洗浄します。それと共に、根の先の根尖孔を塞ぐために根の中を最低限に削り、充填しやすくする道を作ります。
③ガッターパーチャと言う南国で取れる樹液と酸化亜鉛を混ぜた物質を根管の中に、生体ガラスの様なシーラー(糊)とを一緒に根管内に詰め込んで、根尖孔を閉鎖します。
④ガッタパーチャを少々除去し、グラスファイバーの土台をレジンと共に立てます。それを削り、光学スキャニング。そしてCAD/CAM装置によりセラミックの冠を作成し装着し治療は終了します。
根管治療で重要なポイント
CTによる歯の歯根形態の把握
歯の根は歯の部位により、根の数や形態については、ある程度の傾向があります。しかし全く同じような形態の歯は2つとありません。その様な状況で骨の中に埋まっています。一昔前までは、平面のレントゲン写真を撮って、ある程度、立体を想像するしかありませんでした。ところが歯科用CT(以下CT)の普及に伴い、歯の根を立体的に把握する事が出来るようになりました。よって、根管治療、特に奥歯の場合は、CTによる形態の把握は必須と言えます。形態が分かっていないのに、予想で歯の根の中を削るのは危険なのです。尚、現在では、奥歯の根管治療のCT撮影は健康保険でも認められるようになっています。
麻酔をしてから治療をします
麻酔をしてから治療をします
神経があるないにかかわらず、相模原敬友会歯科では麻酔をしてから根管治療を行います。神経がない歯、つまり再治療の場合は麻酔をしない施設が多い様ですが、根の先の孔である根尖孔付近では感覚が有るのが一般的です。よって麻酔をしないで治療をすると、突然痛みを生じさせることになります。
また、麻酔も歯のそばにいきなり行わない方式を採用していますので、麻酔そのものが痛い事はございません。さらに、相模原敬友会歯科では、全て電動麻酔器を使用しています。これらを使うことにより麻酔の量や圧力をコントロールできるので、確実に麻酔を効かすことができます。
マイクロスコープによる施術
歯の中の根管に小器具を入れて治療をしますので、細かい部分が見えないとなりません。そして根管内がどれくら綺麗になったかは肉眼では見えません。最低でも4倍以上に拡大して見る必要があります。
又、マイクロスコープと言えども、ピンからキリまであります。当院では5台のドイツのカールツァイス社のマイクロを導入しています。レンズが優秀で有る事及び、アームの取り回しが他社にはない安定性と操作性があるからです。当院では、保険診療、自費診療、全てマイクロスコープ下で治療しますが、使用料の様な追加費用はかかりません。
根管形成
根の中(根管内)を注意深く削ります。それは最終的に根の先の孔である根尖孔をしかりと閉鎖できるようにするためです。手で使う道具から回転系のドリルまでを使います。ポイントとしては根尖孔を確実に塞ぐことができる最低限の歯の切削にすることです。また、回転系のドリルを根の先まで使うと根尖孔を広げすぎてしまいますので、注意をしながら行います。
根管内の洗浄
根の中(根管内)には、歯髄の壊死した残留物質や、治療による歯の削り屑、細菌の塊等が存在します。それを綺麗に洗浄して根管に排出する必要があります。この場合、マイクロスコープで見ながら超音波洗浄を行う必要があります。
そして、次亜塩素酸ナトリウムやEDTAという薬剤で洗浄をします。
マイクロスコープで見て細かいゴミも取り除きます。それでも細菌の数をゼロにするのは無理と言われています。よって、根の先の根尖孔を塞いで残留した最近を根尖孔から出さないようにします。
根管充填(こんかんじゅうてん)垂直加圧根充
根の中を綺麗に洗浄することは当たり前で、更に敬友会の歯科では根管充填が最も重要だと考えています。根管充填は、根の先にある根尖孔と言う歯と骨の間に存在する孔を確実に閉鎖し歯の中と生体を隔離します。
つまり根の先にコルク栓の様な蓋をしてしまうのです。
根管治療が終了しても鈍痛がしたり、咬めないのはこの蓋が不完全な場合が多いです。つまり、蓋が出来ていないので、根の中の有害物質や細菌が根の先から骨の部分に出て行くのです。これを人体は歯自体を異物だと本人に警告をする。これが痛み等の不快事項なのです。ただ、ある一定数は、閉鎖状態が不完全でも症状が全くないケースもあるのが、難しいところです。
米国の根管治療専門医では、垂直加圧根充法(CWCT法)が圧倒的に主流です。
垂直加圧根充法の一種のケースルクト法による根管充填
歯の寿命を左右する根管充填
実際の根管充填法
ただ、この根尖孔にコルク栓をピッタリするのは至難の業なのです。なぜならば、根の先の孔の先には骨があるからです。つまり空気が抜けない環境なのです。もしも骨が無く、空気が抜ける環境でしたら、何か流動性の有るものを注射器の様な器具で押し込めば根の先に蓋をする事が可能です。しかし、それが出来ないので、その欠点を補うべく、色々な充填法が考案されてきました。ところが日本で教育されている充填方法は側方加圧根充法、40年前と変わらない方法を延々と教育されているのです。当院ではこの様な不完全な方法では無く、健康保険でも垂直加圧根充法を採用しています。よって、予後は側方加圧根充より圧倒的に良い事が、敬友会の歯科医院で徹底的なリサーチにより証明されています。
側方加圧根充法
適当な大きさに根管内を削って(基準が存在しない)固形のガッタパーチャという充填材で根管充填をします。しかし固形物の充填なので、物理的に不整形をしている根尖孔を塞げていない事が多いのです。この方法は症状が治まるまで根管充填ができませんので、延々と歯科医院に通う事が要求されます。予後はあまり良くない場合が多いのが特徴です。論文によると米国の専門医ではほぼ、使われていません。 また、ラバーダムという器具を使っても、側方加圧根充であれば、予後はそれほど良くありません。
垂直加圧根充法
明確な基準を基に、根尖孔を完全閉鎖できる最低限に根管内を削ります。そして熱により半固体としたガッタパーチャという根充材で根管充填をします。半固体のガッタパーチャはその後、硬化をして根尖孔を閉鎖します。よって根尖孔の閉鎖の確認は厳密にレントゲンで行います。尚、側方加圧根充に比べると手間が大きくかかるのが特徴です。しかし根管充填の準備さえできれば、根管充填を行えば、多くの症状は消失します。よって、延々と歯科医院に通う必要は有りません。前歯なら、1〜2回程度。奥歯なら1〜5回程度で終了します。
理事長の久保倉は側方加圧根充を10年間続けました。しかし、術後に咬めない症状がずっと続く症例が多かったのです。
そこで海外を含めて色々なセミナーで技術を習得して参りました。そして垂直加圧根充法に思い切って切り替えました。手間はとてもかかるのですが、側方加圧根充時代の術後のグズグズがほぼ無くなる事に気が付きました。
そして、20年以上経過し、ほぼ全ての症例のレントゲン写真を比較し、独自の垂直加圧根充法である、K.SRCT法を著わしました(2019年)そして、日本歯内療法学会でも発表いたしました。